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2018-01-17

この本読みました!眉村 卓「僕と妻の1778話」、「妻に捧げた1778話」

たまたまテレビをつけたら古い友人がテレビ番組に出演していたり、その名前を学術誌に見つけたり、偶然ネットの検索にひっかかったりすると懐かしくて、ちょっと嬉しくなります。「久しぶりに連絡をとってみるか」と途切れていた交流が復活したりすることがありますよね。友人のことではないのですが昨年それに似た経験をしました。それは、ある本の話です。眉村卓さんという作家が書いた小品集との出会いです。

テレビで話題になった作品で眉村卓氏に再開する。

昨年、同僚が眉村卓さんの話をしていました。「古い作家の話をしているなぁ。でも、どうして眉村卓なんだぁ??」と仕事の手を休めずに何となく話に耳を傾けていました。すると眉村卓さんの本がテレビで紹介されて再ブレイクしているというのです。(たぶんアメトークの読書芸人)レッサーパンダは中学生の頃、眉村卓さんの「ねらわれた学園」、「なぞの転校生」などの作品を読んでいました。確か、当時のSF作品には珍しく大阪が舞台の小説で眉村卓ワールドにのめり込んでいました。話を聞いていると、とても嬉しくて懐かしい。同僚たちが話題にしていた本もきっと最新のSF小説なのだと思いこんでいましたが、全く違いました。

眉村さんは1934年生まれ今年で御年84歳。80歳代半ばでの大ブレイク素晴らしい。

眉村さんは1934年生まれ今年で御年84歳。80歳代半ばでの大ブレイク素晴らしい。

実は絶版本。手に入れるのにとても苦労しました。

早速、その本を手に入れようと街の大きな本屋に出向いたのですが「この本は絶版品で、在庫も売り切れていて有りません。」とのことでした。大型書店を3店回りましたが、どこも同じ、店員さんの話ではアメトーク放送の影響で店頭在庫は全て売切れたとのことでした。とてもガッカリして帰りました。それから3週間後に家の近くの小さな本屋に出かけた際に、「もしかしらたら、小さな店なら在庫があるかも」と思い訪ねてみると「再販が決まりました。すごく人気があるようです。」との嬉しい答え。早速、注文しようとすると「 『妻に捧げた1778話』と『僕と妻の1778話』の2冊があるのですが、どちらにします?」と尋ねられました。事情がよくわからないので、とりあえず2冊とも取り寄せることにしました。

新潮新書版には、なぜこの小説を書こうと思ったのか背景も丁寧に説明されています。

新潮新書版には、なぜこの小説を書こうと思ったのか背景も丁寧に説明されています。

末期がんの妻に捧げた1778篇のショート・ショート

本はその後、10日ほどで手に入りました。(ちなみに、最近では書店の店頭に山積みになっています。)新潮新書から出ているのが「妻に捧げた1778話」文庫本として集英社から出ているのが「僕と妻の1778話」です。どちらも末期がんの宣告を受け余命一年と診断された奥さんのために書かれた作品で構成されています。眉村さんは1日1話、400字詰め原稿用紙3枚以上と決めて、毎日、毎日、1日も欠かさずに短い小説を書き続けました。奥さんが亡くなるまでの5年間で、作品の数は1778話となりました。新書版は1日1話を始めた背景や奥さんに対する思いが、文庫版にはその1日1話作品が52編厳選されている形です。書籍を丁寧に読んでいくと「小説として掛け値なく面白いもの」もあれば正直、過去の完成度の高い作品を読んだ者には「ちょっと物足りなさを感じるもの」もあります。プロの作家さんですから、どれも卒なくまとまっていますが、やはり5年間、1778話を書くということの苦しさ難しさがひしひしと伝わってきます。でもこの小品は多くの読者の最大公約数を楽しませる為というよりは、死期が近づいた奥さんに生きがいを与えるために書かれたショートショートストーリーなのです。ご本人も本文中で書かれているのですが「毎日たいへんだけれど、止めてしまうと何か良くないことが起きそうで・・・」これは小説の形を借りた「お百度参り」だなというのがレッサーパンダの正直な感想です。

文庫本の解説は娘さんの村上知子さんが書かれています。これも素晴らしい。

文庫本の解説は娘さんの村上知子さんが書かれています。これも素晴らしい。

切ない別れにはレクイエムが必要なのです。

眉村さんは奥さんをただ一人の読者ととらえていたようですが、奥さんはそうではなかったようです。奥さんは眉村さんに一流作家の作品レベルを求めました。そして眉村さんの書いたものが多くの読者の為の小説として世に出ることを強く望みました。唯一の読者になるのではなく「最初の読者」になることを望んだのです。眉村さんは、きっとその事を良く解かっていたのだと思います。それでも「妻の為に書きたい」、「自分で読めなくなったのならば読んで聞かせたい」という気持ちが本当に切なく悲しくもあります。人は誰でも必ず死ぬし、この世から居なくなります。このことは誰にも止めることはできません。それでも愛する人を失いたくない。なぜ、私一人を置いていくのか・・・という恨み言を言いたくなります。ジャズボーカルの女王ビリー・ホリデーが死んだとき、彼女を偲んでピアノの名手マル・ウォルドロンが名曲「レフト・アローン」を奏でたように、レクイエムは残された人のために必要なのだと思います。この一日一話は眉村さんがご自身のために書き続けたレクイエムなのでしょう。

何だか、お気の毒な話で眉村卓さんが再度ブレイクするのはオールドファンにとっては複雑ですが、もう一度、眉村さんの過去のSF小説も読んでみたくなりました。古い友人と再会すると新しい発見があるように、古い小説からまた何か新しいものが見えてくるかもしれません。

ジュブナイル小説と呼ばれた「なぞの転校生」また読んでみたくなりました。大阪が舞台。

ジュブナイル小説と呼ばれた「なぞの転校生」また読んでみたくなりました。大阪が舞台。

そうそう書き忘れました。レッサーパンダは本書に収録されている作品では89話「生命反応探知装置」、198話「偶然の顔」、1329話「Qさんと協会」などが好きでした。

今日はテレビや新聞で話題になっている眉村卓さんの本「僕と妻の1778話」、「妻に捧げた1778話」のお話でした。それでは、またね。

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