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2019-12-23

この本読みました!「暗幕のゲルニカ」でピカソの愛にふれる

こんにちはレッサーパンダです。皆さんは読んだ本がとても面白くて「ページが減っていくのが寂しい・・・」という経験はありませんか?本の世界に入り込んで「このお話の先を知りたいけれど、最後まで読んで終わらせたくない」と思ったことはありませんか?読書の秋の終りにそんな気持ちになる本に出合いました。原田マハさんの「暗幕のゲルニカ」です。

平成30年7月1日初版発行されており、既に文庫本となっています。表紙がゲルニカ。

平成30年7月1日初版発行されており、既に文庫本となっています。表紙がゲルニカ。

スペイン無差別空爆への抗議として生まれた大作『ゲルニカ』

ご存じの方も多いと思いますが『ゲルニカ』はパブロ・ピカソがスペイン内戦中の1937年に描いた傑作です。(ピカソはスペインのマラガ出身です。)同年1月にスペイン共和国政府はピカソにパリ万国博覧会のスペイン館を飾る壁画製作を依頼しました。当初あやふやな返事をしていたピカソでしたが、ドイツ空軍が1937年4月26日スペインの都市ゲルニカを無差別空爆したのをきっかけにスペイン政府の依頼を引き受けます。その非人道行為に激怒したピカソは、その無言の抗議としてこの作品を制作しました。作品は高さ349 cm × 777 cmという大きな油彩です。

作品が生まれた当時、その評価は二分したようです。既に円熟期に入っていたピカソの才能と戦争に対する火のような迫力に多くの人々が感動しました。方や「戦争を描いた恐ろしい絵画」、「政治的イデオロギーを感じる」など厳しい批判もありました。これは第二次世界大戦・前夜という時代背景や社会的状況への配慮も多分にあったのでしょう。世間の批判はともかく、ピカソはその作品に対しての思い入れからか制作過程(ピカソ作品においては唯一)を写真に残させています。ピカソは絵画に世界を変える力があると信じたのです。

「芸術は飾りではない。敵に立ち向かうための武器なのだ。」有名なピカソの言葉です。

グランドホテル形式で描かれた名画「ゲルニカ」をめぐる物語

小説の話にもどります。本作品はピカソが『ゲルニカ』を制作した1937年のフランス・パリと、同時多発テロ事件からイラク戦争にすすむ2001年~2003年のアメリカ・ニューヨーク、二つの時代の話がグランドホテル形式で描かれています。ピカソが『ゲルニカ』を描くにあたって誰が協力したのか?なぜ『ゲルニカ』が現在もなお世界で一番借り出しにくい絵画と呼ばれているのか?アメリカがイラク戦争の開戦を国連本部で表明した際に背景に見えるはずの『ゲルニカ』(国連本部にあるのはピカソが実際に監修したタペストリーで世界に3点あるうちの1つ)に暗幕がかけられたのか?そんなエピソードが大きな美しい織物のように物語を紡いでいきます。

瑤子とドラ・マール、二人の女性の交錯

この小説には二人のヒロインが登場します。一人は2003年を生きる八神瑤子(架空の人物)。もう一人は1930年代後半から1940年代にピカソとともに歩んだドラ・マールという女性です(実在の人物)。

写真家で絵も上手かったドラ・マール。芸術家としての才能に恵まれていました。

写真家で絵も上手かったドラ・マール。芸術家としての才能に恵まれていました。

瑤子は幼いころにピカソの『ゲルニカ』に出逢い、その後、MOMAニューヨーク近代美術館のキュレーター(博物館・美術館などの、展覧会の企画・構成・運営などをつかさどる専門職)として再び『ゲルニカ』と数奇な出逢いを果たす日本人女性です。2001年9月11日のテロで夫を亡くし、平和の象徴とし『ゲルニカ』を再びMOMAに呼び戻そうと情熱を傾けます。

方やドラ・マールはピカソを知る人たちの間ではあまりにも有名な女性。ピカソの恋人で『ゲルニカ』の制作過程を写真で記録した唯一の人物です。時代を超えた二人の「勇気」や「恐れ」、「憧れ」や「愛」が描かれます。いつしかそれが「鳩」をテーマにしたピカソの小品によりひとつにつながります。

ピカソの有名な「泣く女」。モデルはドラ・マールだったとか。

ピカソの有名な「泣く女」。モデルはドラ・マールだったとか。

ピカソのエロス(恋愛)とアガペー(博愛)

これも有名なお話ですが、ピカソは恋多き人でした。91歳で亡くなるまでに2度の結婚、5度の同棲を繰り返しています(ドラ・マールもその内の一人)。多くの女性を情熱的に愛したエロスと人類愛に満ちたアガペーが同居する類まれなパーソナリティを持ち合わせていたことが、この小説にも描写されています。彼の人生は多くの葛藤や苦悩に満ちていた半面、たいへんドラマチックで奔放、充実したものだったようです。

ダンディーで女性にはとびきり優しかったピカソ。芸術家として有名になる前からモテた。

ダンディーで女性にはとびきり優しかったピカソ。芸術家として有名になる前からモテた。

月並みですが・・・いつか本物のゲルニカを見てみたい

この物語の主題は「オリジナルの『ゲルニカ』は、再びアメリカのMOMA美術館に飾られるのか?」ということです。敢て、その結末には触れずにおきます。(興味を持っていただいた皆さんに実際に小説を読んでいただきたいから。)

この小説に描かれている「戦争の愚かしさ」や「悲惨さ」は世界中の誰もが知っていることです。それでも戦争は無くならない。この世界というものは一体全体なんなのだろう!?と考えさせされます。それでも平和の象徴『ゲルニカ』は、オリジナルがスペインのソフィア王妃芸術センターにあり、3つのタペストリーはニューヨーク、フランス、日本に今も歴然と存在します。

徳島県にある大塚国際美術館にある『ゲルニカ』原寸大レプリカ。陶板の複写作品。

徳島県にある大塚国際美術館にある『ゲルニカ』原寸大レプリカ。陶板の複写作品。

私たちは「道を誤りそうになった時」、「人を傷つけたくなった時」この傑作を振り返るべきだと思います。たいへん月並みですが、この小説を読んでスペインにある本物の『ゲルニカ』を観てみたいと強く思いました。今日はピカソの名画『ゲルニカ』にまつわる小説「暗幕のゲルニカ」のお話でした。あなたも、平和の意味について今一度考えてみてください。それでは、また。

 

暗幕のゲルニカ

作者:原田マハ 新潮文庫 510頁750円(税別)

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