この本おすすめ!「そして、バトンは渡された」瀬尾まいこ
こんにちはレッサーパンダです。読書の秋ですね。本は好きでよく読みます。ところで、よく人から「レッサーパンダの読書は変わっている」と言われることがあります。ある時、「専門書やビジネス書など難しい本やお堅い本が続くと、全く対極にある本をとりあえず読んでバランスを取ろうとする癖がある」という話を人にしたらとても不思議がられました。今回選んだ本も一見、レッサーパンダの好みから、かなりかけ離れた本でした。その本は瀬尾まいこさんの「そして、バトンは渡された」という本です。
チャンスがなかった「本屋大賞受賞作」をはじめて読む
「そして、バトンは渡された」は2019年の本屋大賞受賞作品です。実は、この本に特別惹かれていたわけではないのです。強いて言うならば「本屋大賞受賞作って意識して読んでいないな」ということ。先日から資格試験関連の本ばかり読んでいたので、良い気分転換になるのではと思ったのです。ご存じの方も多いと思いますが本屋大賞というのは「本の売れない時代に、売り場からベストセラーをつくる!」ということを目的に出来た賞です。全国の書店の店員さんが新刊の中から良書を選んですすめるという企画です。(「発掘部門」という旧来の本の中から時代を越えた名著を選ぶという企画もあるそうです。)過去、レッサーパンダは「何だ!本屋さんたちの販売促進か?」と疑念をもっておりまして、本屋大賞受賞作を積極的に手に取る気になりませんでした。今回はほんの出来心、緑色の綺麗な表紙に惹かれての衝動買いでした。
人生は悪いことばかりではないと思わせてくれるストーリー
「そして、バトンは渡された」の話にもどります。タイトルから「スポーツ系の話?」、「陶芸とか歌舞伎とか・・・何か親子で伝統文化を引きつぐような話??」と勝手に想像を膨らませていましたが、予想外のストーリーでした。ネタばれにならない程度に簡単にお話するとこんな感じです。主人公は女子高に通う「優子」。実母は亡くなり、父は再婚しますが仕事でブラジルへ。その後、義理の母に育てられ、途中で義理の母のきまぐれで違う義理の父が出来て、更に義理の母は家を出ていき最終的にまた違う義理の父と暮らしている・・・というかなり数奇な運命の元、複雑な環境で育っていく彼女の人生を描いたお話です。
こんな風に書くと「優子の不幸物語」なのかと思いますが、予想は完全に裏切られて、淡々と自分の境遇を受け入れ笑顔で健やかに成長していく女の子の物語なのです。小説の冒頭、高校の教師との面談の場面で「困った。全然不幸ではないのだ。少しでも厄介なことや困難を抱えていればいいのだけれど、適当なものは見当たらない。いつものことながら、この状況に申し訳なくなってしまう。」と優子が心情を独白する場面があります。この小説では、こんなほのぼのした調子が最後まで一貫して続きます。
「こんな複雑な家庭に育って幸せなはずないだろう!」、「出来すぎたハッピーストーリーは本当に絵空事でリアリティーに欠ける!」などなど・・・人生に苦労して今の幸せを勝ち取った諸兄からの非難の声が聞こえてきそうです。それでも「辛いはずの人生をあっけらかん、淡々と生きている優子みたいな人も世の中にはいるかも知れない。」と思わせるのがこの小説の素晴らしいところです。作者・瀬尾まいこさんの技量、ストーリーテラーとしての才能に引き込まれてしまいます。
女優・上白石萌音さんの解説もよくできています
この本の最後に女優の上白石萌音さんが解説を書いています。上白石萌音と言えば美人姉妹で知られた超売れっ子の女優さん、知らない人はいないと思います。彼女は瀬尾まいこさんの大ファンらしく、稚拙な文章ながら(レッサーパンダが言うのも失礼ですね・(笑))『瀬尾まいこさん愛』が詰まった熱い解説です。中には萌音さんの解説が読みたくて、この本を手に取った読者もいるかも知れませんね。
萌音さんは解説の中で作者を評して「瀬尾さんの言葉は、おいしいごはんみたいだ。あたたかくて、ホッと甘くて、からだと心に沁み渡る。」と書いています。この言葉にとても共感できました。「そして、バトンは渡された」という小説のような境遇の人が本当にいたとしたら「人生に失望したり」、「世の中を恨みながら生きる」ねじれた人間が生まれているのが現実かもしれません。でも、上白石萌音さんがいうように作家の「からだと心に沁み渡る」語り口が、「ひょっとしたら、こんなに前向きに、素直に自分の人生を受け入れる人がいるかも・・・。」と思わせてくれるのです。さすが、上白石萌音さん、人気女優は書評も良いセンスしています。
夢と希望に胸躍らせたあの頃に戻りたい・・・
この小説、「絵空事は信用できない」というリアリストや、「自分の人生を親が振り回した」と今も思い続けているような人にはお薦めできないかもしれません。たぶん「薄っぺらな作り話」としか思えないのではないかなぁ。ネットの書評を見ても「上辺だけの軽い物語だと思う」、「若い人が読むライトノベルならアリだと思います」などといった酷評もあります。この小説、本当にその人の歩んできた道や人生観の違いで、好き嫌いの分かれるところです。
それで、レッサーパンダはというと・・・100点プラスアルファといったところでしょうか(自分で言うのも変ですが、高得点つけている自分が不思議。読み始めと読み終わりでかなり評価が変わりました。)確かに絵空事的な要素は沢山あるし、突っ込み所も盛りだくさんなのです。でも優子の「これから幸せな人生を自分の足でしっかり歩いていく」という希望に満ちた様子が、今、人生の後半を歩いている自分にも光明を与えてくれるような気がします。あの頃の瑞々しい気持ちを蘇らせてくれます。大河小説を読んでいるわけではないので、そんな清々しい気持ちにしてくれただけで、この文庫本740円は「得した」感がありました。
最後に、よく小説には「グランドホテル形式」や「どんでん返し」といった作者の仕掛けがあります。そんな大仰なものではありませんが、この小説にも一つの仕掛けがあります。プロローグ部分で優子の若い義理の父親・森宮さんが朝食のメニューに悩むシーンがあります。はじめ、意味が全く分からないシーンなのですが、最後まで読むとその意味が解ります。心正しいレッサーパンダは、読後、もう一度プロローグを読んでホロリとしました。この小説、日々、忙しすぎて心疲れている人が、ちょっとだけ「ホロリ」としたい時におすすめですよ(笑)。
今日は女優・上白石萌音さんもすすめる小説「そして、バトンは渡された」のお話でした。それでは、またね。
小説「そして、バトンは渡された」について
著者:瀬尾まいこ
出版:株式会社文藝春秋(文春文庫)
2020年9月10日初版 定価740円(税別)
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