日本マクドナルド「デジタルマーケティング」の話
今日は仕事で出かけた講演会のお話です。少し固いお話ですから好き嫌いが分かれるかも。それとレッサーパンダが勝手に思う事を書きますので「こんな考えの人もいるのだな」と軽く流してくださいね。
中之島リーガロイヤルホテル大阪で開催されたイベント「DEC・Fourm2017」
大阪の中之島にあるリーガロイヤルホテルで開催されたイベント(講演会)「DEC・Fourm2017」に招待されて、様々な企業の方のお話を聞いて来ました。
このイベントはトランス・コスモス社という「デジタルマーケティング」、「EC(インターネット販売)」、「コールセンター業務」などの事業で社業を伸ばしている大手企業が主催しています。「デジタルマーケティング」をテーマにネスレ日本、日本マクドナルド、Googleなどの先進企業が主に自分たちの取組についてお話をしてくださいました。どれも興味深いお話だったのですが、レッサーパンダは日本マクドナルドさんのお話に惹かれました。
変わっていく日本マクドナルドのアイデンティティーと戦略
日本マクドナルドは2014年から2015年にかけて、「チキンマックナゲットにビニール片」「サンデーチョコレートにプラスチック片」「マックフライポテトに人間の歯」「パンケーキに金属片」など、次々と異物混入がマスコミで話題となりました。決定的だったのはチキンマックナゲットに係る期限切れ鶏肉問題でした。2015年には業績もどん底で「何をやっても売れないマクドナルド」という世間の言葉通り11年ぶりの大赤字を出していました。そんなマクドナルドですが、現在、2015年を底に業績がV字回復をしています。
不祥事ではない「マクドナルドが売れない」根本原因
講演の中で業績に関するお話は少なかったのですが、彼らはどうやら業績低迷の理由を健康被害や期限切れ食品などによる世間の不買や批判の声によるものだとは思わなかったようです。その理由を「マクドナルドのマーケティングと世間とのミスマッチ」と理解し、そのギャップ埋め戦略の中心にデジタルマーケティングを据えたのです。ここから、マクドナルドの逆襲が開始されます。
「新聞を読まない」、「雑誌を買わない」、「テレビも見ない」人々の心をどう捕らえる!?
日本マクドナルドは年商4,384億円、その広告費も莫大な金額になるわけですが、多くはテレビや雑誌などの既存の媒体に費やしてきました。しなしながら、最近の若者から壮年世代は新聞や雑誌、テレビにも関心を示さない人々が増えています。これが大きなミスマッチにつながっていると彼らは捕らえました。それでは彼らは一体何をしているのでしょうか?多くは携帯電話を中心としたツールによる情報の受取と発信であることに気がつきます。しかし、初めはその様な人たちに「ハンバーガーを買うようにどう仕掛けるか?」が皆目解からなかったようです。そんな中で試行錯誤しながら始めたのが「携帯アプリ」でした。
得になるものは勝手に拡散してくれる
皆さんご存知のようにマクドナルドのアプリを携帯にダウンロードしておくと情報が更新され、「今買ってほしい」、「今買いたい」商品の割引クーポンがデジタルで手に入ります。これはマクドナルドの当初の予想を良い意味で大きく裏切り、現在、3,700万ダウンロードと爆発的に広まっています。これは大きな宣伝費をかけたのではなく、ユーザーが勝手に広めてくれたのです。いわゆるSNSなどによる「拡散」というやつです。『バズる』という言葉をご存じですか?(ご存じない方の為に、これはネット上で特定の単語や話題が爆発的に広まるという意味です。SNSなどで誰かが書き込む、それを見てまた誰かが書き込む、それが繰り返され天文学的な閲覧数に進捗することを指します。)最近の若い世代は、広告(純広告)によるメディアの露出は「よそごと」、SNSによる拡散は「身のこと」と感じ、既存のメディアの情報よりも「体験した誰かの評価」を信じる傾向があるようです。そこで頭の良いマクドナルドは「メディア広告も重要だが、デジタル対策をする方が(ユーザーが)勝手に宣伝してくれて効率的じゃん!」と考えたわけです。
遊び心(FUN)が無いと消費者が付いてこない
まず、ソーシャルネットワークの世界で「バズ」を発生させようとすると何が必要か?それは「面白さ」、「奇抜さ」、「楽しさ」、「先取り」などの遊び心です。「自分が面白いと思うから楽しむし、人に伝える」、「誰も知らないことを人に自慢したい」などと言ったところでしょうか。(これは今、ブログを書いているレッサーパンダも同じです。)だから、その元ネタとしての宣伝ソースを上手くSNSの世界に投入してやれば良いのです。但し、その面白さや遊び心を企業はWebやSNSだけでは伝えきれませんし、まずインパクトに欠けます。その初期戦略としてテレビCMや紙のメディアを効率的に活用しているのです。遊び心の例を出すと「金のナゲット」(SF映画のパロディー)、「ハンバーガーの名前募集」、「マクド」VS「マック」、「マクドナルド総選挙」(消費者参加型キャンペーン)などです。「マクドナルド総選挙」を例に挙げると、最終的にはダブルチーズバーガーが優勝したのですが選挙公約(?)で1位当選したら『トリプルチーズバーガー』を発売すると言っていました。この『トリプルチーズバーガー』がバズ・ワードとなり発売前から話題となった結果、総売上が対前年120%越えをしたそうです。また、この企画は新商品を全く市場に投入しないことから、商品開発費がほとんどかからず、利益率が恐ろしく良かったようです。何ともすごいSNSの効果です。また、最近では森永ミルクキャラメルやカルピスとのコラボ、au三太郎の日など有名企業とのアライアンスに積極的です。既に市場に受け入れられている商品とのコラボは、その知名度の高さが自社の宣伝費用を大きく肩代わりをしてくれるそうです。
「商品設計指向」から「話題化軸指向」へ
これまでのメーカーやサプライヤーは新商品を開発し、それを如何に市場に受入れてもらえるかに苦心し、巨額の宣伝広告費を投じてきました。しかし、マクドナルドは考え方の軸を根本的に変えたそうです。それはコロンブスの卵的な発想転換で、まず「何が話題になるか」、「何が受けるか」を先に考えた上で商品づくりを手掛けるそうです。特にSNSなどWeb上の住民を重視しています。その具体的な取組の例として、最近は商品の名前を極端に短くしています。もともと長い名前の商品には愛称をつけて名称をわざわざ短くしています。「必勝バーガー」、「超グラコロ」、「裏マック」などで、全て13文字以内です。これはSNSやネット上の記事タイトルが概ね13文字だからです。(バズを呼び込むにはそれが必須です。)また、最近は「フォトジェニック」を合言葉にインスタレーションに夢中になっている女性顧客を意識して、写真映えする色彩やロゴを使ったパッケージに全て変えて行っているそうです。最近、「マクドナルドのパッケージや包装が変わったな」と思っていましたが、何とインスタを意識していたとは驚きました。話を聞いてマクドナルドの全身全霊をかけた顧客追いかけぶりに本当に感心しました。
つまるところ自分軸か他人軸かという問題
講演会を聞いて「マーケティングの二極化」ということにつて考えさせられました。一つは自分たちの立ち位置で良い物を作り、賛同しくれる人に買いに来てもらう「静のマーケティング」、もう一つは見栄もプライドもかなぐりすてて移ろい易い顧客の感情を徹底的に追いかけ、扇動する「動のマーケティング」です。これまでメーカーは「良いものさえ作って、正しく供給すれば顧客は解かってくれる」という神話的とさえ言える思い込みの上に立ってモノ作りをすすめてきました。日本マクドナルドの現在の業績回復を見ていると、そんな「良い物神話」は駆逐され、きっと後者が勝ち組になっていくのだと思います。これからの時代は「良い物が売れる」時代から「ノリの良い物が売れる」時代になっていくのだと思います。今回の講演を聞いた企業の多くが、その成功事例を目の当たりに突きつけられ、その事を再確認したのではないでしょうか。(レッサーパンダもその一人です。)
1つの恐ろしい現実が浮き彫りに・・・
今回の講演会を聞いていて日本の社会が増々軽薄で短絡的で浅薄な社会になっていることが浮き彫りになったようで、背筋が寒くなる思いでした。「感覚優先、ノリで物を買う人々」、「ビッグデータなどの活用により企業に先導されている人々」の多さに驚きました。企業人であるレッサーパンダがこんなことを書いてはいけないのでしょうが、この様な「浅薄な赤子の手をひねるような商売」を許して良いのだろうかと考え込んでしまいました。企業利益の追求が人々をどんどん現実から引き離し、増々リアリティーの無い世の中の出現を促している様に思えます。人々を幼稚で馬鹿にすることで、商品がドンドン売れていく様な仕掛けに思えて仕方ありませんでした。日本マクドナルドも建前では企業理念や社志に「社会との調和」や「正しい社会の創出」を謳っているのでしょうが、絵に描いた餅であることは明白です。これは批判ではなく現実の描写です。
今回の講演会は(講演者、主催者の目論みとは別のところで)たいへん勉強になりました。今一度、社会(人)と企業の関わり合い方を考えてみる良い機会をもらった気がしました。
今日の文章は関心の無い方には大変つまらないお話になって、本当に申し訳ないと思います。とても強く感じたことを言葉で残したくなり書いた文章です。次回はもう少し楽しい話を書きたいと思いますのでお見捨てなきよう、よろしくお願い致します。それでは、またね。