この本読みました!藤岡陽子「満天のゴール」心ゆさぶられる感動の医療小説!
「最近、夜空の星を見上げていないなぁ」と思っていたところ、この小説に出会いました。本の装丁を見ると天の川に輝く星が一つ、それを見上げる少年(青年?)のイラスト。帯には「医療小説」と書いてあったので、青年医師の青春熱血小説かなと思って読み始めたのですが、最初の想像とはかなり様子が違いました。
小説の舞台は京都府京丹後市の自然豊かな里山
舞台になっているのは京都の丹後半島、関西の人には海水浴で馴染みのある場所です。全国的には「天橋立」や「伊根の舟屋」があることで良く知られています。この地域、山が海の間際まで迫り、あまり農業に向かないようです。
海沿いは良い漁港があったり、海水浴場が沢山あったりと賑やかですが、少し内陸に向かうと険しい山間部となります。舞台はそんな丹後半島の里山。そこで医療孤立する高齢者とそれを支える医療関係者の物語です。
過疎地の地域医療について詳しくはないけれど・・・
レッサーパンダは子供の頃から何度もこのあたりに足を運んでいます。賑やかな市街地もありますが、とても寂しい場所が目立ちます。伊根の舟屋があるあたりも情緒があって美しい場所ですが、実際に暮らしている皆さんには観光客の想像もつかないご苦労があるのではないでしょうか。この小説の主人公である医師・三上高志はそんな京都最北端の過疎の地域で高齢者に寄り添いながら地域医療を支えています。また、もう一人の主人公、川岸奈緒は夫の浮気をきっかけに東京から郷里の丹後にもどり、息子の涼介と人生をやり直すため看護師として勤め始めます。その二人が地域の患者さんたちとどう関わるか、また、東京生まれの三上が過疎の京丹後に、なぜ着任しよと思ったのかが物語の重要な鍵になります。この小説の題名にもなっている「満点のゴール」とも深く関わりドラマを深みのあるものにしています。レッサーパンダは過疎地の医療については門外漢で難しいことは解かりませんが、ここに描かれている過疎地の姿は、小説の中の作り話ではなさそうです。
「人生って悪くないね」と思わせてくれる小説
この本の題名になっている「満天のゴール」とは、「人生のゴール」のことです。病や貧困、孤独に耐え、いかに懸命に生き抜いて麗しく死ぬことができたか。その人らしい最後の瞬間とはどういうものかを物語っています。本当は「満点のゴール」なのでしょうが、この小説では(丹後の)夜空の星の美しさに置き換えて「満天のゴール」としています。
医師・三上高志は訪問しているお年寄りたちに画用紙を渡し、尋ねるたびに「星のシール」をプレゼントします。お年寄りたちが三上からもった星の数は、今日まで頑張って生き抜いた証であり、明日からも生きて行こうという勇気となっています。人間だれしも死の訪れに恐怖し、突然、癌宣告された人などは不条理な人生の結末に嘆き悲しみ、時には誰かを傷つけたくなったりすることもあるでしょう。この小説に出てくる人たちは、悲喜こもごもあるなかで最後には自分の終末を正しく受け入れています。よく「死んだ人は星になる」といいますが、「星になり残された人々の道を照らすということは本当なのだ」と思わせてくれる小説です。読んでいると目頭が熱くなり、温かい涙があふれる場面が度々訪れます。その度に「人生って(人生の終わりって)悪くないな」と思えてきます。
「満天のゴール」とどう向き合うか。
日本の病院数(22床以上の医療施設)は世界1位、世界の平均数の2倍だそうです。しかしながら、責任の重い外科、内科、産婦人科は絶えず医師不足が続いています。そのため医師の一人当たりの患者受け持ち数が極めて高いのです。直接命のやり取りをする診療科目を避ける医師が増えるいわゆる「医師のサラリーマン化」が増々、地域医療の衰退に拍車をかけています。 国は、こんなに沢山の病院があるというのに「医療費削減」しか念頭になく、高齢者を自宅に帰らそう、自宅で死なせようと躍起です。これまでは「自分の人生をどう生きるか」を考るかが我々の課題でしたが、これからは「どう死にたいか」が大きな人生の課題になる時代です。人は良く生き、良く死ぬことで残された人たちの道を照らす星になれるのではないかと思います。この小説「満天のゴール」はそんな、人の死に方につて大切なヒントをくれる小説です。ちなみに、この本を書いた藤岡陽子さんは現役の看護師だそうです。命のはざまを見守ってきた方だからこそ書けた「現実の重み」がこの小説にはあります。ぜひ読んでほしい、レッサーパンダ、おすすめの1冊です。
今日は地域医療の現実を書いた、心をゆさぶられる小説「満天のゴール」のお話でした。それでは、またね。
満天のゴール
発行:株式会社小学館
価格:1,400円(税金別)ページ総数:295ページ
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