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2018-07-13

大山崎山荘美術館/歴史的邸宅がアーティスティックで特別な空間に

先日来、サッカーワールドカップがすごく盛上っていましたね。特に日本は初のベストエイトの座をかけてベルギー戦に臨みました。結果は残念でしたが、日本チームにとってこれぞまさに天王山!!(「天下分け目の天王山」)でした。

この慣用句に使われる「天王山」は実際にある山なのです。織田信長を討った明智光秀とその仇討ちを果たそうとする羽柴秀吉(後の豊臣秀吉)が戦った山崎の戦いでは、この山を制したほうが勝利するという重要な戦略拠点だったのです。今日はその天王山の山裾にあるクラッシックな美術館「アサヒビール大山崎山荘美術館」のお話です。

今ではハイキングコースになっている歴史遺産「天王山」。その登り口から美術館に向かう。

今ではハイキングコースになっている歴史遺産「天王山」。その登り口から美術館に向かう。

山道を登ると、そこは浮世離れした美術館

この美術館、もともとは大正期の加賀正太郎という人が建てた「大山崎山荘」という私邸でした。この美術館にたどり着くにはJR京都線・山崎駅からかなり急な坂道を15分近く歩かなければなりません。(JRや阪急電鉄の駅から無料送迎バスが出ています。)この上り坂が歩くとけっこうきついのです。

美術館に続くアプローチの手前までアサヒビールの無料バスが送迎してくれます。

美術館に続くアプローチの手前までアサヒビールの無料バスが送迎してくれます。

ところで、加賀正太郎という人物ですが、証券業をはじめとして多方面で活躍した関西の有名実業家です。ニッカウィヰスキーの創業者の一人でアサヒビールの初代社長・山本爲三郎とも親交が深かったそうです。その縁か、この美術館はアサヒビールが運営管理し、山本爲三郎が蒐集した貴重なコレクションが展示の大半をしめています。

庭園入口に位置する有名な「琅玕洞」(おうかんどう)。とても雰囲気のあるトンネルです。

庭園入口に位置する有名な「琅玕洞」(おうかんどう)。とても雰囲気のあるトンネルです。

山本は当時の民芸運動を支持し、河井寛次郎、濱田庄司などと交流があり、大山崎山荘美術館ではその貴重な作品を所蔵しています。ところで加賀正太郎という人はかなりの好事家で、人が通わないこんな場所に当時としては一大事業ともいえる規模の別荘を建てました。

急な山道を登りつめたところに、やっと美術館の敷地が見えてきました。

急な山道を登りつめたところに、やっと美術館の敷地が見えてきました。

美術館の説明によると加賀は「英国風の別荘」を作りたくて、自ら場所を探し、自らこの建物を設計したとのことです。作り付けのソファーと暖炉のある玄関、大理石で出来たサンルーム、楽団を招いてパーティーを行った階段付きのホールなど当時としては夢の国のような大邸宅だったのでしょう。

正面に見えるクラッシックな洋館が大山崎山荘美術館。英国の田舎にあるお城のようです。

正面に見えるクラッシックな洋館が大山崎山荘美術館。英国の田舎にあるお城のようです。

現在でもその迫力と優雅な佇まいは来訪者にため息をつかせます。隅々まで行きとどいた館内の装飾や各室の設計は、加賀の高い美意識を伺うことが出来ます。

まるで軽井沢あたりにある避暑の別荘リゾートの様な美術館の玄関。写真を撮る人多し。

まるで軽井沢あたりにある避暑の別荘リゾートの様な美術館の玄関。写真を撮る人多し。

アーツ・アンド・クラフツ運動の推進者ウィリアム・モリス

この日、大山崎山荘美術館を訪れたお目当ては4月から開催されている「ウィリアム・モリス展」でした。レッサーパンダが訪れた日も、かなりの人出で、大変失礼な言い方ですが「こんな辺ぴな場所によくこれだけ人が集まるものだなぁ」というのが正直な感想です。

作り付けのソファや複雑に組まれた太い梁がとても良い雰囲気です。

作り付けのソファや複雑に組まれた太い梁がとても良い雰囲気です。

ウィリアム・モリスは19世紀後半のイギリスの芸術家です。産業革命により粗悪な大量生産品が溢れた当時、モリスは人の手による上質なプロダクトを再興しようとした人です。

ウィリアム・モリス展のパンフレット。ハイセンスなイギリス流「花鳥風月」が表紙に。

ウィリアム・モリス展のパンフレット。ハイセンスなイギリス流「花鳥風月」が表紙に。

花柄の壁紙やテキスタイル・デザインが有名ですが、実はグラフィックデザインだけでなく、家具やインテリアの設計、絵本の執筆や詩の創作、出版事業とその才能を開花させました。

洋風の柱のむこうに広がる日本庭園と蓮池。この和洋折衷が不思議と心地いい。

洋風の柱のむこうに広がる日本庭園と蓮池。この和洋折衷が不思議と心地いい。

その活躍は「生活の芸術化を図る」というコンセプトのもと、アーツ・アンド・クラフツ運動の推進者として後世に名を残しています。山荘の素晴らしいシチュエーションのせいか、作品に集中でき、とても満足感の高い展覧会でした。

山手館に向かう廊下。かつては蘭を栽培する温室に向かう通路。

山手館に向かう廊下。かつては蘭を栽培する温室に向かう通路。

木津川、宇治川、桂川の三川を一望できるテラスで歴史の巨人たちを偲ぶ

この美術館には民芸運動の作家作品以外にクロード・モネの睡蓮の連作が飾られています。その数点の作品のために「地中の宝石箱」と呼ばれる安藤忠雄氏が設計した、かなりユニークな展示スペースが用意されています。

本館と地下の展示館を結ぶ廊下。コンクリートが安藤忠雄・流。

本館と地下の展示館を結ぶ廊下。コンクリートが安藤忠雄・流。

貴重なモネですが、あまりにも舞台が大仰すぎて、レッサーパンダとしてはNGでした。

こちらの階段で地下1階の地中館(地中の宝石箱)に向かいます。

こちらの階段で地下1階の地中館(地中の宝石箱)に向かいます。

それよりも、好きになったのは2階のテラスです。京都リーガロイヤルホテルが提供するスイーツも食べられる喫茶室は、風が良く通り落着けます。

2階にあるクラッシックな喫茶室。とても人気があり約30分の順番待ちでした。

2階にあるクラッシックな喫茶室。とても人気があり約30分の順番待ちでした。

木津川、宇治川、桂川の三川が合流するあたりを見渡すことができ、遠くには石清水八幡宮のある男山もみえます。歴史上の有名な人物たち、明智光秀や羽柴秀吉、禁門の変で自害した長州藩士らもこの山の上から同じ景色を見たに違いありません。

奥が「バラとクランベリーのケーキ」、手前が「桜と苺のケーキ」どちらもGood!

奥が「バラとクランベリーのケーキ」、手前が「桜と苺のケーキ」どちらもGood!

もしかしたら加賀正太郎と山本爲三郎もこの景色を肴にビールやウィスキーを酌み交わしていたかもしれませんね。ここでこうしてお茶を飲んでいると、歴史を動かした巨人たちに親しみを感じます。

京都の有名な三川を見下ろす喫茶室のテラス。川向うには石清水八幡宮も見えます。

京都の有名な三川を見下ろす喫茶室のテラス。川向うには石清水八幡宮も見えます。

ひと時、日常から離れ心遊ばすことができました。大山崎山荘美術館は美術館としての建築規模は国際美術館に引けをとりますが、居心地の良さと歴史的意義において価値ある宝石のような美術館です。とても気に入りましたので秋にまた訪れたいと思います。レッサーパンとしては◎です。それでは、また。

アサヒビール大山崎山荘美術館

場 所:京都府乙訓郡大山崎町銭原5-3

TEL:075-957-3123

開館時間:10:00~17:00

休館日:月曜(祝日の場合は翌火曜)、年末年始。展示替えのための臨時休館あり。

入場料:一般900円、高・大学生500円、中学生以下は無料。

交 通:JR京都線「山崎駅」、阪急京都線「大山崎駅」から無料送迎バスあり。

※美術館には駐車場が無いので駅側のコインパーキングを使う事になります。

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