「口からうんちが出るように手術してください」という本について
こんにちは。レッサーパンダです。我家の双子パンダも8歳になり漢字の多い本も読めるようになっております。二人とも好奇心にまかせて様々な本をガツガツ読んでおります。特に妹の左利きさんは少々変わり者ですが、中々の読書家で最近は大人の本にも興味津々です。それで、最近はお父さんパンダの本棚にある書籍に好奇心が破裂しそうになっています。
子パンダの好奇心を刺激する魅力的なタイトルの1冊・・・
子供はみんな「おしっこ」、「うんち」という言葉にすごく反応しますよね。実は子パンダが身もだえするぐらい魅力的な本が父さんパンダの本棚にはあります。本のタイトルは「口からうんちが出るように手術してください」と言います。248ページのハードバックです。子パンダは自分の手に余ることに気づいて「お父さん、読んで聞かせて!」と毎日のように言いつのっておりました。それで、ある日曜日にこの本を久しぶりに開いて読んで聞かせました。ところが、本の内容は彼女たちが期待していたものと想像以上に大きくかけ離れていたようです。期待で膨らんでいた胸は10分も経たない内に、まるで空気の抜けた紙風船のようにしぼんでしまいました。 それも、そのはずです。この本は先天性脳性小児マヒの女性が書き綴ったエッセイで小学校3年生の彼女たちには少々難しい内容だったのですね。
本の作者、小島直子さんのこと・・・
小島さんとは3年前に福祉関連の雑誌の対談で、はじめてお目にかかりました。その当時、レッサーパンダは仕事で「紙おむつを必要とする障がいのある若い人(子供)たち」に対する全国調査を行っておりました。人は赤ちゃんの頃に紙おむつを使い、だいた4歳ぐらいで外れます。次に使う時は高齢になって排泄機能に問題が生じたときです。しかし、障がいのある子供たち(青年たち)は生まれてからその一生を通じて紙おむつを使い続ける人も少なくありません。当時、全国の特別支援学校のPTAの皆さんや障害者団体の皆さんにご協力をいただき1,500名以上の方からのアンケートをいただくことができました。その結果を発表するにあたり、実際に重度の障害があるオピニオンリーダーの皆さんと誌上対談をさせていただきました。その時のゲストのお一人として小島さんは参加されていたのです。
小島さんは初めメーカーが行う大掛かりな調査に懐疑的だったように思います。しかし、お話をしていくうちに、こちらの考えに賛同していただき、ご自身が経験された個人的な(ちょっと人には言いにくいような経験の)お話を聞かせていただきました。彼女は電動車椅子の利用者ですが、沢山の事が自分自身でできる方です。東京に住む女性ですが、都会で逞しく生きておられるという強い印象を受けました。
送られてきた素敵なプレゼント・・・大切にしたい1冊
対談が終わり、その様子が雑誌になって発売される頃、小島さんから1冊の本がとどきました。
それが、この「口からうんちが出るように手術してください」という本でした。本は彼女自身の半生を綴ったエッセイです。小学校の頃、療育園に入った彼女は明晰な頭脳を持ちながらも身体の障がいある為に知的障がいのある子供たちと同じレベルの学習しかさせてもらえず、普通校(小学校)に行こうと決心します。それを支えるお父さん、お母さんの努力と深い愛情。その後、高校生、女子大生と成長する彼女は素晴らしい仲間や恩師と出会います。多くの人の力を借り、介護が必要な身でありながら独り暮らしができるまでに成長する様子が、瑞々しい文章でつづられています。本を読み終わったレッサーパンダは、これまでの自分自身の人生が、いかに恵まれたものであったかに恥じ入る思いでした。また、これほどまでに多くの人々に愛される彼女が大変うらやましく思えました。なによりも、もし困ったことが起こったとしても「自分ひとりで頑なに頑張り続ける必要はないのだ」ということに気づかされました。人の力を借りて生きるということは、障がい者であろうが健常者であろうが大なり小なりあることです。素直に人の助けを受け入れて、心から感謝することが、どれほど大切なことであるかをこの本は教えてくれました。レッサーパンダが一生大切にしたい一冊です。
「口からうんちが出るように」なんてならないのです。
小島さんは本の中で、こんなことを書いています。「朝ごはんを食べれば、生理現象として、数時間後にはしたくなる。でも、ひとりではできない。だから、食べたくても、たべられないのである。『口からうんちが出るように手術してください』って、病院の先生にどれだけ頼みに行こうと思ったかわからない。毎日のことだから切実な課題だけれども、なかなか簡単に解決のつけられない難問だけれど、今は自分でコントロールしていくしかない。今日も、そして明日からも。」(本文より抜粋)この本のタイトルは、この一節から生まれました。今も彼女は障がいのある体で、その人生を前向きに生きる素敵な女性です。いつかレッサーパンダも高齢になって、若い頃にできたことが出来なくなってしまうことでしょう。食事や排泄も自分ではできなくなるかもしれません。でも、誰も「口からうんちが出るように」手術してもらう必要はないのです。出来ないことは出来ないと素直に認めながらも、自分の人生の全てを他人に委譲しないという強い気持ちを持つことが、幸せな人生を過ごす最上の方法なのでしょう。レッサーパンダはそう思います。子供たちが大きくなって人生のいろいろな事が分かるようになった時、是非また、この本を読んでほしいと思います。
いつかレッサーパンダが高齢になったとき、小島さんは何十年もの障がい者キャリアを積んでいて、障がい初心者のレッサーパンダを見て「教えてあげようか?」とニッコリと微笑むことでしょう。