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2017-10-23

この本読みました!中村文則の『R帝国』

こんにちは、レッサーパンダです。レッサーパンダが昨年読んだ本で一番衝撃的だったのは中村文則氏(なかむら・ふみのり)の「教団X」という長編小説でした。18万部を超える大ヒット作になったので読まれた方もいらっしゃるのではないでしょうか?中村文則氏は2005年に、『土の中の子供』で第133回芥川龍之介賞も受賞しています。今、脂がのっている実力派小説家の一人です。今年も夏に新刊が出ており、遅ればせながら読みましたので、その感想を書きたいと思います。

これまで読んだ中村文則作品。芥川賞の受賞は2005年28歳で受賞。

これまで読んだ中村文則作品。芥川賞の受賞は2005年、28歳で受賞。

新刊「R帝国」は近未来の日本を予感させる衝撃的な小説

「教団X」は宗教と愛と神の存在について語られた衝撃的な小説でした。今回の「R帝国」もかなり衝撃的でした。

舞台は、近未来の架空の島国・R帝国。民主主義を標榜しているものの、野党はお飾りで事実上の一党独裁の国家。人民の大半は「HP」(エイチ・ピー)という人格を持ったAi携帯端末に依存しており、極端なネット社会で、自身や家族が幸せであることをアピールすることだけに生きがいを感じている人々の世界。国家や流行・世の中の趨勢に疑問を感じる人間に対しては極端に攻撃的で狭量な社会。電気供給は原子力に依存し、核兵器を保有する。マスコミは党に媚び諂い、戦争を正当化し、開戦はあたかも国民の民意だと情報操作される世界。国民の84%は貧民層なのだが、彼らは残り16%の富裕層に実質支配されていることに気がつかないばかりか、自分たちが貧民層であることすら信じない。自分より下の人間、そのまた下の人間がいることに安心し、弱い者がもっと弱い者を叩く社会。「抵抗」という言葉が辞書から消されてしまい、正しい意味を知る人がいない世界。それが「R帝国」です。私たちが住む、この日本という国の未来に重ねてしまうのは私だけではないはずです。

今回読んだ「R帝国」。近未来の架空の国家が舞台となります。

今回読んだ「R帝国」。近未来の架空の国家が舞台となります。

我々が望むのは「半径5メートル」の幸せなのか?

この小説の主人公(らしき人たち)は二組の男女です。ある朝、突然、戦争がはじまり敵対国からの攻撃を受けます。実はこれは開戦の口実を作るための党の画策したフェイクであることが分かります。最終的にこの男女が命をなげうって党の悪行を白日の下にさらし国民に広く伝えます。普通の小説はこれで終わり、ハッピーエンドなのですが、作者の中村文則はそんなことで許してはくれません。あまり書くと、まだお読みでない方にネタバレになってしまうのでこの辺で。

レッサーパンダが考えさせられたのは悪役の党の幹部が主人公に述べる「人々が欲しいのは、真実ではなく半径5メートルの幸せなのだ」という言葉です。自分に関わる、親しい人や物事には感心を向けるが、社会や未来や世界の将来がどうなろうと知ったことかという現代、日本を象徴したような言葉です。自分と自分の子供とごく限られた親しい人が幸せに暮らせるならば、他人の利益や権利や感情はどうでもいい。悲惨な現実には目を耳を塞いでしまう。「半径5メートルの幸せ」とはそんな世界です。自身、冷たいナイフを背中に突きつけられたようなリアルさで、後ろめたさを感じました。

「リベラルの終わり」のはじまりなのか?

今、この文章を書いているのは2017年10月22日の夜12時30分です。衆議院選挙が行われ、開票速報が夕方からずっと続いています。現時点で自民・公明が過半数233議席をはるかにこえる302議席を確保しています。平和憲法9条もとうとう書き換えが始まりそうです。レッサーパンダは護憲が全てとは思いませんが、リベラルが危機をむかえることには激しい違和感を持ちます。思いますに、これは小説ではなくリアルな現実において「R帝国」に近い世界が出現しそうな予感があります。「半径5メートルの幸せ」の呪縛から自ら決別しないことには、世界の思わぬ方向への暴走に異を唱えることができないのではないかと思います。

現代・日本への厳しい警鐘のように思われる衝撃的な小説です。

現代・日本への厳しい警鐘のように思われる衝撃的な小説です。

この小説「R帝国」は現代・日本への厳しい警鐘です。今の日本の国、今の自分と自分を取り巻く人たちを意識して読むと大変面白い小説です。367ページと読み応えのあるボリュームですが中村文則氏の筆力により、あっと言う間に読めてしまいます。機会があればぜひ読んでみてください。

R帝国」

著者:中村文則(なかむら・ふみのり)

発行:中央公論新社

※作家の活動がわかる公式サイトも面白いですよ。


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