コース料理1本で勝負する「電気食堂」のすごい理由!
皆さんはこんな経験ありませんか?第一印象は良くなかったのに、付き合ってみると実はとても良い奴で、知らぬ間に、すっかり親友になってしまっていた。その友達が実はすごい才能をもっていたりして。今回はそれに似た経験をしたレストランのお話です。
うそ!?思っていたレストランとちがう?
訪れたのは京都市内、高倉四条下ルにある「電気食堂」です。最近、テレビの取材も受けている新進気鋭のイタリアンと聞いていたので、名前を聞いて、まず???「食堂??」という感じでした。大丸百貨店のすぐ側と聞いていて、てっきり賑やかな場所にあると思っていました。実際はお店の所在がわからず迷ってしまいました。
見つけた店はなんと築100年という京町屋、狭くて古い露地の一番奥でした。本当にこんなところにイタリアンレストランがあるの??
恐る恐る店に近づくと、短髪の強面のおじさん二人が何だか忙しそうに働いています。どうやらこの人たちがシェフで料理を作るようです。レッサーパンダはお昼12時に予約を入れていたのですが、お店に着いたのは11時45分頃でした。正午までもうあと15分。
当然、お店のどこかで待たせてもらうつもりでいたのですが、帰ってきた答えは「12時からなので、まだ準備できていません。ちょっと何処かで待っていてください。」狭い店でもないのに何だか感じ悪いな・・・この店大丈夫か?でも予約も入れているし仕方がないのでデパートで時間をつぶして、もう一度出直すことにしました。
すごいプレゼンテーションが人気の秘密
12時5分にお店に入りました。何だか出鼻をくじかれたようで、ちょっとテンション下がり気味で席に通されます。
よく 周りを見回すと、店の中は古い町家を丁寧にリノベーションされたとても趣のある作りです。奥ゆかしいのですが、よく見るとお金もかかっているようです。席に通されて印象が少し変わりました。2階の窓際の席。照明を最低限に抑えた室内に柔らかい自然光がすりガラスを通して柔らかく届きます。
優しい日の光の中でメニューを見ます。なんとメニューはお昼のランチコース1本だけです。2800円のランチに料理は10品です。「ほんとに、ちゃんとした料理出るの??」という感じです。お店の最初の印象が悪かったせいか、ちょっと懐疑的になってしまいます。
最初のメニューは「煙」と書いてあります。う~ん、意味が解からない??そこへ届いたのは大きめのガラスのお猪口を伏せたような不思議な器です。
なかには・・・「煙」が入っている!少し芳ばしいような香りと共に現れた料理はオードブル。
つぶ貝とドライ苺が添えられた季節の野菜をナマコと西洋山葵のソースでいただきます。「煙」を使った面白いプレゼンで驚かされた後は、爽やかな辛味と酸味のあるソースにしっかり引きこまれてしまいました。
料理はトントンと気持ちの良いリズムでサービスされます。二つ目のオードブルは紅ズワイガニと里芋のソースとポルチーニのジュレ。
いつもの一品(実は穴子と生湯葉のお吸い物・・・和食??これにもビックリ)。
トリュフと赤粒胡椒をちりばめたハンサムな感じのショートパスタ。
続いてカリフラワーのポタージュ。ここまでリズムに乗ってあっという間です。
一息ついたところで、こんどは透明なラップをされた料理がうやうやしく運ばれます。目の前でハサミを使ってそのラップを開けてくれます。
すると、本当に「ぶわぁ~ああ」という感じで魚介の香りが立ち上ります。これはオリジナルのブイヤベースだそうです。本当に美味しい!
一つ一つにこだわりのプレゼンテーションがありグイグイ引っ張っていかれている感じです。最悪の第一印象はすっかり払拭されて、「電気食堂」の世界にどっぷりはまり込んでしまいました。他のテーブルのお客さんを見ると、皆さん同じタイミングで見事に同じ料理を一斉にサービスされていて、料理の作り手とサービス担当の息もぴったり合っているようです。
料理の美味しさは舌だけで味わうものではない
キウイのソルベで一休みして、最後に「からすみと小蕪の和風リゾット」でしめくくりです。
ここまで食べて気づいたのですが、12時前に店に入れてくれなかったのにはちゃんと訳があったのですね。
お客に新鮮な驚きを与えるために舞台裏を見せたくないのと、あの「煙」のオードブルに象徴されるように、シェフは料理を提供するタイミングをかなり慎重に計っていたのです。開店前の不機嫌な顔はかなりの真剣勝負の証だったのです。料理は舌だけで味わうものでは無いということが良く解かりました。絶妙のタイミングや客に新鮮な驚きを与えるプレゼンテーションも含めて料理なのですね。
料理人の誰もが「やりたくても出来ないこと」をサラリとやってのけています
驚きというと、最後に出たデザートにも驚かされました。出てきたデザートは「植木鉢」でした。
ココアビスケットが敷き詰められた器は植木鉢で芽を出したばかりのパセリそのもの。一口食べるとブリュレだとわかるのですが、見た目の印象とのギャップで脳が混乱してしまいます。
でも、とても美味しい。本当に最後までやられた!という感じです。この価格(税別¥2,800)でこの内容、本当に勝負していますね。このお店、夜もコース料理一本だけです。これは料理人の自信の証です。フレンチやイタリアンのシェフは、本当は自分の力量を発揮できる渾身のメニュー一本で勝負したいのです。でも、料理に迷いがあったり、売り上げの心配をしたりで、なかなか勝負に出る人は少ないのです。この電気食堂のシェフ、やっぱり只者ではありません。満腹でお店を出るとき、シェフが玄関先で、最初とは別人のような良い笑顔でお見送りをしてくれました。
まるで、何年も前からの親友のように見えました。今度は、夜の勝負メニューを食べに来ようと相談しながら帰りました。
今日は新鮮な驚きに出会えた高倉通四条の電気食堂のお話でした。それでは、またね。
創作コース料理のお店「電気食堂」
住所:〒600-8082京都市下京区高倉通四条下ル高材木町221-3
営業時間:昼 12:00~15:00 (LO13:30)
夜 17:30~23:00 (LO20:30)
TEL:075-351-2288
料 金:昼¥2,800(税別)、夜¥3,900(税別)