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2020-11-16

この本おすすめ!天才ゴッホの人生を追体験できる小説「たゆたえども沈まず」原田マハ

おはようございますレッサーパンダです。11月も後半に差し掛かり世間は少しずつ年末モードに入っているようです。年末年始というと色々楽しい事が目白押しです。年末に向けてレッサーパンダも一つ楽しみにしていることがあります。楽しみにしていること、それは、ある美術展に行くことです。既に11月3日より大阪・中之島「国立国際美術館」で開催されている『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』に行きたいと思っています。

誰もが知っている天才画家ゴッホについて再度考える・・・

実はこの展覧会にフィンセント・ファン・ゴッホの作品《ひまわり》が展示されているからです。今更、ゴッホ??という声が聞こえてきそうです。実はレッサーパンダが「もう一度、ゴッホの作品が見たい」と思ったのには訳があります。先日、原田マハさんという方が書いた小説「たゆたえども沈まず」という小説を読んだからです。この小説を切っ掛けに、レッサーパンダはゴッホという画家にムクムクと好奇心が沸き、もう一度、ゴッホについて考えてみようと思うようになりました。

原田さんは山本周五郎賞受賞など多数の受賞歴のある小説家。キュレーターとしても活動。

原田さんは山本周五郎賞受賞など多数の受賞歴のある小説家。キュレーターとしても活動。

人と人の出逢いと別れが時代を築いていく

19世紀にパリで活躍した日本人画商・林忠正。林とその弟子・加納重吉がパリの街で、まだ無名の画家フィンセント・ファン・ゴッホと彼を献身的に支える優秀な画商でその弟テオドール・ファン・ゴッホに出逢い親交を深めていくというストーリーです。林と加納はゴッホ兄弟と深くかかわっていく中、芸術の都パリで「時代が動く瞬間」に立ち会います。ロマン主義やラファエル前派など古典的な写実主義絵画が画壇を席巻していた19世紀中半、美術界に新しい風「印象派」の時代が訪れます。印象派がやっとパリの人々の理解を得られた時代、その印象派の先を行くゴッホの作品はとうてい世間から評価さるものではありませんでした。小説では、失望から人生を見失うゴッホを信じる林と加納が葛藤する姿、国籍や人種を越えた加納とテオドールの深い友情が描かれます。

普通の小説ならば主人公の画家が苦難の末、成功を収める・・・ということでハッピーエンドなのですが、我々は歴史上の事実としてファン・ゴッホの悲惨な人生の顛末を知っています。リアルな史実と麗しい人々の心の機微。それを丁寧に語るこの物語、ある意味、とても残酷な小説です。

林忠正は小説の中で、パリに魅せられながら「自分はパリに受け入れられることはない」と絶望するゴッホに言います。「セーヌに受け入れられないのなら、セーヌに浮かぶ舟になればいい。」、「だからあなたは舟になって、嵐が過ぎるのを待てばいい。たゆたえども、決して沈まずに。」、「そしていつか、この私をはっとさせる一枚を描き上げてください。そのときを、この街で待っています。」この林の慈愛あふれる言葉「たゆたえども沈まず」がこの小説の主題となっています。

「たゆたえども沈まず」とは「どんなに揺さぶられ漂っているだけのようでも、船が沈みさえしなければ、必ず復活できる」という意味でセーヌ河の船乗りたちが言い交した言葉です。

「たゆたえども沈まず」とは「どんなに揺さぶられ漂っているだけのようでも、船が沈みさえしなければ、必ず復活できる」という意味でセーヌ河の船乗りたちが言い交した言葉です。

フィクションとノンフィクションの境を描く小説の素晴らしさ

この小説に登場する林忠正は実在の人物です。1878年にパリに渡り浮世絵の芸術性をヨーロッパに広めた一流画商です。フランス政府から教育文化功労章(叙勲)を贈られた時代の寵児です。後に52歳で亡くなるまで精力的に活動し、日本に500点もの印象派作品を持ち込むという偉業を果たします。片や加納重吉は架空の人物で原田さんの創作です。小説の中で重吉はゴッホの弟テオドールの無二の親友として描かれています。ゴッホ関連の研究ではテオドールに日本人の親友はおらず、ゴッホと林は面識もないようです(ゴッホは日本が好きで浮世絵に関しては他の印象派画家以上に関心を持っていたようですが)。つまり、この物語「たゆたえども沈まず」は史実を追いかけたノンフィクションではなく、あくまで原田マハさんの空想の世界から出来上がったフィクションなのです。丁寧に取材し、歴史的事実を検証したうえでの架空の物語。この小説の素晴らしさは、史実を理解している読者たちに「同時代を生きたゴッホと林忠正は私たちの知らないパリのどこかで偶然出逢っていたのでは?」と思せる筆力にあります。

もしかしたら、こんなパリのカフェで彼らは意気投合していたかもしれませんよね。

もしかしたら、こんなパリのカフェで彼らは意気投合していたかもしれませんよね。

ピカソに続きゴッホ!原田マハさんのファンになりました

実はこの春に神戸で開催された「ゴッホ展」に出かけました。神父から転向したばかりのゴッホ、初期のゴッホの絵は下手くそでちょっと笑えます。その後、印象派が台頭するとその画法を真似たり、ジャパネスクブームが始まると浮世絵に傾倒するゴッホ。節操の無いゴッホの行動をたどると「上等な人物」には思えませんでした。(正直、かなりがっかりして帰ってきました。)

しかしながら、今回、この小説を読んで彼の作品をもう一度、違った目線で見てみたいという気持ちになりました。ゴッホの絵から兄を信じて支援する真摯な弟テオドールの姿、異国で颯爽と生きる林忠正や加納重吉の面影、19世紀パリの残滓みたいなものが感じられるのでは・・・と『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』に期待しています。

今回の展覧会では有名なゴッホの作品「ひまわり」も展示されているようです。楽しみ。

今回の展覧会では有名なゴッホの作品「ひまわり」も展示されているようです。楽しみ。

実はレッサーパンダは既に原田マハさんの小説「暗幕のゲルニカ」を読んでいます。こちらはピカソの歴史的反戦絵画をテーマにした時代を越えたスケールの大きなお話です。ピカソに続き、ゴッホ!最近すっかり原田マハさんにやられているレッサーパンダです。

『ロンドン・ナショナル・ギャラリー展』のゴッホ作品のお話はまた後日、それではまたね。

小説「たゆたえども沈まず」について

著者:原田マハ

出版:株式会社幻冬舎(幻冬舎文庫)

2020年4月10日初版 定価750円(税別)

原田マハさんのWebサイトはこちら

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