toggle
2017-11-03

この本読みました!井川直子『シェフを「つづける」ということ』

レッサーパンダです。以前、ホテルで勤めていたことは書きましたが、その際にホテルの広報としてフランス料理や懐石料理などの知識を身に着けるため一生懸命に料理やワインについて学んでいた時期がありました。これまで全く経験の無い分野でしたから大変苦労しました。そんな時、フランス料理のシェフの一人から勉強にと一冊の本を紹介されました。教えてもらったのは海老沢泰久という小説家の本で「美味礼賛(びみらいさん)」という本です。辻料理師専門学校の校長で希代の料理研究家「辻静雄」の半生を描いた伝記小説です。

レッサーパンダが大切にしている本です。既に古典の領域です(笑)

てっきりメニューの読み方やフランス料理の歴史などの実用的な本を教えてもらえたと思っていたレッサーパンダは少々がっかりした思い出があります。但し、この本からは予想外に多くのことを教わりました。「日本に本物のフランス料理がどのようにもたらされたのか」を知る重要な手がかりが丁寧に描き込まれた小説だったのです。25年以上経った今でも、手元に置いて時々パラパラと拾い読みする大切な本となっています。ちなみに現在、レッサーパンダの手元にある文庫版は3代目です。

新たに手元に置きたい料理関連本を見つけました。

料理関連の本はある時期読み漁りましたが、今ではわずかを残して手元にはありません。そんなレッサーパンダにとって久しぶりに手元に置きたい本を見つけました。井川直子さんというフリーライターが書かれたノンフィクションで『シェフを「つづける」ということ』という本です。井川直子さんは料理やシェフに関わる様々な記事を書くことを中心に活動を続けるライターさんで現在は「dancyu」(ダンチュウ)というプレジデント社が発行している食関連の月刊誌でコラムを持たれたりしています。

装丁のデザインを手掛けられ尾原史和さんは最近人気のデザイナーさんです。

本の内容を簡単に書くと10年前、井川さんは外国で(外国は主にイタリアを中心としたヨーロッパで)修行をする若い料理人の方々と親交を持ち、その大志や未来への希望や当時の心の動きを聞きとり1冊の本にまとめられました。(これは柴田書店から「イタリアに行ってコックになる」という題名で出版されています。)あれから10年。ある者は日本に帰り3ヵ月先まで予約の取れない有名店のシェフになり、ある者は病に倒れ車いす生活を強いられる。また、ある者は発展めざましい中国で、日本人が作るイタリアンを広めようと複数の店舗を飛び回る。中にはイタリアのスローライフに自分の人生を重ね合わせ永住権を手に入れる者まで・・・。まさに人生色々、15人の料理人の悲喜こもごもの実話が切れのある文章で淡々と書き綴られています。書籍の帯には「全ての料理人&勝負しつづける全ての人のバイブル!」というキャッチが書かれていますが、この本はまさにそのような本です。

この本を読んで亡くなったある先輩の事を思い出しました。

その先輩はFさんといいまして、既に14年近く前に亡くなっておられます。当時デザイン・設計事務所を経営されておられ、社員も増え大手ゼネコンなどとの大きなプロジェクトがいくつも動き出し、これからという時に・・・病に因る無念の他界でした。

そのFさんですが、実はグループ展をしていた頃の先輩で、よく食事に連れて行ってもらいました。(先輩というには年齢がひと回り以上離れており、先生の様な方でした。)食べることが大好きで、様々な料理を水彩画で繊細に仕上げられており、画力はプロの領域でした。遊ぶ時も本気で遊ぶ!そんな事をFさんから学びました。Fさんは仕事柄、接待も多く祇園の有名料理店に出入りすることが多く、個人的にも食べることが大好きで、名だたる店を食べ歩いておられました。料理を食べて帰っては、それを絵に描かれる。料理の細かなところが思い出せない時や、自分の絵に納得されないと、また、そのお店に出かけて同じ料理を注文される。その様なことを繰り返されていたようです。料理絵を続けるうちに絵は数十点にもおよび、ある時、祇園のギャラリーで個展を開かれました。祇園町の名だたる名店の店主がこぞって詰めかけ自分の店の料理を描いた絵を買って帰るということになりました。(自分の店の料理が絵に描かれ、ライバル店とならんでいるのですから、これは買うしかありませんよね。)そんなわけで日曜画家の絵に数百万円という値段がついたそうです。Fさんは展覧会のあと、絵を買ってくれたお店で買上げ額の倍ほどの食事をして帰るという、何とも豪勢で優雅な『遊び』をしておられました。料理人さんたちとも親交が深く(自分の料理を絵にして完成するまで通い続けるお客さんを誰もおろそかにするはずがありません。当りまえですよね。)その当時、若造のレッサーパンダはFさんと料理人さんの親密で濃いお話が理解できず、悔しい、何だか自分が不甲斐ない思いをしていたことを思い出します。

『シェフを「つづける」ということ』を読んでいて、あのころのFさんと料理人さんたちの濃密で切れのある会話が、イタリアンのシェフたちと取材をすすめる井川直子さんの姿とオーバーラップしました。お二人には何の接点も無いのですが(もしかしたら祇園町や北新地ですれ違うことがあったかもしれませんが(笑))この本はレッサーパンダに胸が締め付けられるような懐かしい、ほろ苦い思い出を呼び起こしてくれました。

ミシマ社に飾ってあった井川直子さんの直筆の色紙です。

新作本「昭和の店に惹かれる理由」も楽しみです。

この『シェフを「つづける」ということ』という本には取材のお話だけではなく実際の今の店舗の様子や住所なども書かれています。実は奈良の「リストランテ・イ・ルンガ」や阪急・岡町の「エル・バウ・デコラシオン」などをレッサーパンダは知っています。この本を読んだ今、もう一度でかければ、以前以上にシェフとお話がはずみそうな気がします。いつになるかは分かりませんが、残りの12店舗にもぜひ足を運びたいと思います。

それと、先週、井川直子さんの「昭和の店に惹かれる理由」という新刊も手に入れました。なにやら「ダ・ヴィンチ」のプラチナ本に選出されたらしく、まだ、本は開いていませんが、ページをめくるのが今から楽しみです。

今年の春に発売された井川直子さんの新刊です。

今日は作家・井川直子さんの『シェフを「つづける」ということ』にまつわるお話でした。それでは、またね。

本日取り上げた本のご紹介

『シェフを「つづける」ということ』¥1,800

『昭和の店に惹かれる理由』¥1,900

ともに著者:井川直子、発行はミシマ社

 

Sponsored Link




関連記事