この本読みました!漫画「君たちはどう生きるか」
最近は、古い小説や漫画が映画の原作になったりして「古き良きもの」がリバイバルで復活していることが良くあります。本当に良いものというのは時代を越えて変わらないということが良く分かります。今日は、そんな古き良きものが今の時代に復活しヒットしている「素晴らしい例」をご紹介したいと思います。
80年前に出版された名著の漫画版リバイバル。
1937年といいますから昭和12年、今からちょうど80年前『君たちはどう生きるか』という1冊の小説が出版されました。この年はパリで万国博が開催され、スペインでは内乱が始まり、ナチスドイツが他国の空爆を開始したりした年でした。日本では日中戦争の開戦という大きな「歴史の節目」になった年です。大正末期からの社会の隆盛と軍部の伸展、好景気と社会の荒廃、芸術と俗物、それらが同時に存在を主張しだした混沌の幕開けです。ある意味アバンギャルドな時代でもありました。小説では山本有三が『路傍の石』を書いた年でもあります。
そんな混乱の時代の最中、吉野源三郎という児童文学者で反戦活動家の男性が、この「君たちはどう生きるか」という小説を岩波書店から出版しました。当時のティーンエイジャーから圧倒的な支持を受け、ベストセラーとなりました。現代のようにネットで何でもすぐに手に入る時代でありませんでしたから、この当時のベストセラーは現在と重みが違います。小説の内容は平凡な中学生・本田潤一(ほんだじゅんいち・あだ名は「コペル君」)が世の中の成り立ちに初めて気付いたり、親友との友情を裏切ったその後どうやって復活したかなど、思春期の若者の心の葛藤と成長を瑞々しいタッチで丁寧に描き上げた名作です。今年の夏、そんな小説「君たちはどう生きるか」が漫画版としてマガジンハウスから出版されて話題になっています。
43万部の売上!物語だけではない。繰返して見たくなる、初版の挿絵と漫画版・画風の魅力。
この物語のキーになる人物がコペル君の実の叔父さん(お母さんの弟)です。コペル君は叔父さんと天文学や経済学など様々会話を交わしていく間に多くの気づきを得て成長します。また、叔父さんは様々な物事に悩み苦しむコペル君の為に1冊のノートを用意しメッセージをしたためます。このノートを読み、叔父さんと会話していくことで、コペル君は貧困、差別といった社会の構造、人間関係について学びます。
読者はコペル君と一緒に「生きる」という事の意味を考えさせられます。長くはない小説ですし、漫画版はその8割近くが漫画ですからすぐに読めてしまいますが、本当に良い本というのは何かしら人の心に残るものです。また、レッサーパンダは漫画版の優しいタッチの絵が大変気に入りました。漫画家の羽賀翔一氏が描く、どこか懐かしく、いつか何処かで見たような背景や登場する中学生たちのどことなくぎこちない「揺らぎ」を感じさせるタッチに魅了されます。また、原作の挿絵も魅力的です。稚拙なようですが、デッサンのお手本のようなこれらの絵は味があり、簡単に描けそうで真似のできない秀逸な作品の数々です。自分のデッサンパターン集に模写して保存したいと思っています。
自分の生き方を決めるのは、自分だけ。
この本が最初に書かれた時代、昭和の初期は日本が戦争に向かって少しづつ確実に進みだした時期です。何だか、今の日本に似ていないでしょうか。平和憲法が改憲となり、北朝鮮の脅威がリアリティーを持って私たちの暮らしを脅かす懸念が強まっています。いつの間にか、知らぬ間に誰かに自分たちの意図しない所に連れていかれてしまう・・・何だか昭和の初期、平成二十九年よく似ています。
この本を読んで当たり前のことに、改めて気づかされました。自分自身がどう生きるかを決められるのは自分しかいないということです。「人がやっているからやる」、「皆がそう言うから賛成する」、「流れに逆らうと仲間外れになる」、「世間の目が気になって思った通り出来ない」その様な矮小な思いは横に置いておいて、私たちは今こそ「自分はどう生きるか」をはっきりとさせないとならないのでしょう。さもないと、昭和の悲劇をまた繰り返してしまいかねません。「君たちはどう生きるか」がヒットしているのは、もしかしたら、そんな不安を持った人が多くいるせいではないかと考えてしまいます。もしかしたらレッサーパンダもそんな一人なのかもしれません。改めて「君たちはどう生きるか」、「自分はどう生きるのか?」を自問してみたくなる本でした。今日はリバイバルで驚異的なヒットとなっている漫画「君たちはどう生きるのか」のお話でした。それでは、またね。
「君たちはどう生きるのか」
小説版:吉野源三郎 岩波文庫 ¥970(税別)
漫画版:歯が翔一・画 マガジンハウス ¥1,300(税別)
※原作の小説版の巻末に「『君たちはどう生きるか』をめぐる回想」という題で丸山真男氏の寄稿か掲載されています。作者・吉野源三郎さんへのオマージュですが、名文です。ぜひ原作の小説もお読みになることをおすすめします。