「ニンゲン御破算」新キャストで再演された大人計画の舞台を見に行った!
唐突ですが、あなたは十五年前、何をしていましたか?十五年前のことで印象に残っていることは何ですか??レッサーパンダは大人計画という劇団のチケットが取れず、とても悔しい思いをしたことが忘れられません。今日はその「劇団大人計画」の舞台のお話です。
期待に満ちた十五年ぶりの舞台、それも大阪で
今回、大阪・森ノ宮ピロティ―ホールに観に行ったお芝居は松尾スズキ、作・演出の「ニンゲン御破算」という舞台です。
丁度、十五年前、歌舞伎の中村勘九郎(当時は勘三郎)が劇団大人計画と組んで時代劇の舞台をおこなうということで話題となっていました。レッサーパンダも夫婦で出かけようと電話をかけまくっていたのですが(当時はスマホで簡単にチケット予約ができる時代ではなかったのです)全く手に入りませんでした。その「ニンゲン御破算」が今年6月から再演され、なんと大阪で11日間も上演されると聞きました。ぜひ観てみたいと思っていた矢先に、同僚から「良い席が取れたという」震えるほど嬉しい知らせが届きました。
出かけた日は水曜日でしたが、平日にも関わらず当日券(立ち見券)を求める行列が早くから出来ていました。やはり世間の期待も大きいようです。
松尾スズキが手掛けると時代劇もエンターテイメントに
お芝居のあらすじは「シアターコクーン」のホームページをご参照ください・・・と書こうと思ったのですが、そのページもいつ無くなるか解からないので、簡単に書きます。こんな感じ・・・
『時代は江戸の終わりから明治の初め。加瀬実之介(阿部サダヲ)は、人気狂言作者・鶴屋南北(松尾スズキ)、河竹黙阿弥(ノゾエ征爾)へ、弟子入りを志願していた。大の芝居好きで、家も捨て、侍の身分も捨て狂言作者を志す実之介。「あなた自身の話のほうが面白そうだ」と南北に言い放たれた彼は、これまでの自分の人生を語り始める。元・松ヶ枝藩勘定方の実之介は上司の命令で偽金作りに精を出していた。ある日、実之介は奉行から直々の密命を受ける。それは偽金造りの職人たちを斬ること。幼馴染みのお福(平岩紙)との祝言を済ませた実之介は、偽金造りの隠れ家へ向かい、偽金づくりの証拠隠滅のために職人たちを次々に殺める。その様子を目撃していた、マタギの黒太郎(荒川良々)と 灰次(岡田将生)の兄弟は殺しのことは黙っている代わりに自分たちを武士にしてくれるよう、実之介に取引きを持ちかける。そこへ駆け込んできた娘が一人。黒太郎たちの幼馴染みで、吉原へ売られていく途中のお吉(多部未華子)だった。そんな実之介は、同志の瀬谷(菅原永二)や豊田(小松和重)から、悪事の責任をすべて負わされて切腹を迫られる・・・。』
といったところです。言葉にして書くとNHKでよくあるドラマのようですが、松尾スズキが脚本、演出を手掛けるとスケールと深みが変わります。討幕戦争あり、ペリー来航あり、唐人お吉ありとこれでもかというほどエピソードが交錯します。また、歌あり、踊りあり、笑いあり、涙ありと、ある物全てぶちこんだ3時間(15分休憩有り)のエンターテイメントショーとなっていました。
誰も十五年前のことはよく覚えていない・・・だから成立するお芝居
もともと、この脚本は中村勘九郎ありきで書かれたそうです。ですから、この舞台には「セリ上がり」や「下座音楽」、「布を使った波(海の表現)」、舞台上で本当の水を使う「水芸」など歌舞伎の要素が盛りだくさんです。勘九郎亡き後、演出家も役者も再演には、かなりの躊躇があったと思います。前作の出来栄えが素晴らしすぎただけに、さぞややり難かったのではないかと思います。
ただ面白いのは、この公演について主演の阿部サダヲや準主演の荒川良々が語るプロモーションビデオがWebサイトにあるのですが、その中で、二人とも(15年前にも別役で出演しているのに)「当時の事は、ほとんど覚えていない」と語っているのです。これほど強烈に印象に残るはずの大作を二人とも「ほとんど覚えていない」というのはちょっとオカシイ気がします。これはつまり過去のヒット作、名優の色を忘れて自分たちの「ニンゲン御破算」を作り上げるという静かなる宣誓のように見えました。ちょっと穿った見方でしょうか。
成長株の「若手」と手を抜かない「ベテラン」のぶつかり合い
以前、蒼井優が演じた「アンチゴーヌ」というギリシャ悲劇を見た時、その圧倒的な演技力と迫力に言葉が出ませんでした。やっぱりお芝居は年齢じゃない、歳を重ねただけでは一流の役者には成れないということを再確認しました。今回の「ニンゲン御破算」の舞台でも多部未華子と岡田将生の姿に、以前の蒼井優の演技が重なって見えました。
お二人のテレビのCMやドラマでは到底うかがい知れない完成度の高い演技に思わず拍手を送りました。何よりも素晴らしかったのは、若い役者の渾身の演技に、対峙するベテラン陣、阿部サダヲや荒川良々、皆川猿時や平岩紙などが全く手を抜かない。それどころか「こんな事、出来るものならやってみ!」と言わんばかりの全力の演技で返します。
このお芝居、正面舞台を飛び出し客席や花道までも舞台にして演じられます。客席と役者が本当に近い!近い分だけ、その汗を目の当たりにすることができる構成なのです。若手とベテランの(古い言葉ですが)「丁々発止」が「ニンゲン御破算」の最大の見どころだったと思います。15年前の勘九郎版もきっと素晴らしい舞台だったことは間違いありませんが、15年の時を経て、このお芝居は完成の域に入ったように思えました。昔、初めて佐藤B作の「東京ヴォードヴィルショー」や「つかこうへい事務所」の舞台を見た時の感激を久しぶりに味わう事ができました。良いお芝居って本当にコストパフォーマンスが高いですね(笑)。
今日は6月7日~7月15日までシアターコクーンと森ノ宮ピロティ―ホールで公演があった「ニンゲン御破算」のお話でした。それでは、またね。
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