ゴッホ展-熟考・フィンセント・ファン・ゴッホという生き方
レッサーパンダです。皆さんお元気ですか?このところ「コロナウイルス」の影響で騒々しい日々が続いています。子供たちも学校が急遽お休みになり事実上3学期が終わってしまった形になっています。どうも世間が不穏です。
それでも入場者が引きを切らないゴッホ展
そんな中、神戸で行われている「ゴッホ展」に出かけました。1月25日から開催されており、行こう行こうと思いながら先延ばしにしていたら3月になっていました。
出かけるにあたり「ちょうどコロナウイルスの影響で来場者はきっと少ないはず。しめしめ。」と高を括っていました。ところが行ってビックリ!!本当に大勢の人が会場の兵庫県立美術館に詰め掛けていたのです。
やっぱりゴッホの人気は衰えていませんね。ちなみに、美術業界では「景気の悪いときはゴッホかピカソをやれ!」と言われているようです。他の有名芸術家と比べても、その集客力は桁違いなのだそうです。特にゴッホはその波乱万丈の人生ストーリーが伝説化しており、作品もさることながら、その生きざまが『近代芸術のアイコン』となっています。
そんなゴッホですが、その作品や人生の年表を丁寧に見ていくと、世間がイメージする人物像とは異なる「本当のゴッホ像」が垣間見えました。
今回の展覧会の見どころはと聞かれたら・・・
展覧会のお話をすると、今回の展覧会にはいわゆる『ザ・ゴッホ』というような世間で知れ渡った作品は出品されていません。「ひまわり」とか「郵便夫」、「アルルの女」、「オーヴェルの教会」、「星月夜」、「包帯を巻いた自画像」そんな有名作品は展示されていません。唯一、「星月夜」の元絵となる「糸杉」が展示されており今回の企画の目玉作品となっています。あとは「タンギー爺さん」、「ジャガイモをたべる人々」ぐらいかな。
こう書いてしまうと「(ゴッホという)客寄せパンダに、また、ひっかかったか。」、「キュレーターたちの口車に、まんまと乗せられてしまったぁ。」と思う人がいるかもしれません。確かにゴッホの有名作品を一目見たい・・・なんていう人にはハッキリ言って期待外れかもしれません。でも、ゴッホが「みんなの知っているゴッホになるまで」が見える、とても貴重で奥の深い人生ストーリーが楽しめるのです。
実はゴッホは初めから絵が上手かったわけではなかった
今回の展覧会、有名作品が少ない代わりにゴッホの初期作品がたくさん飾られています。27歳で画家を目指したゴッホは独学で修行を積んでいます。特にミレーを尊敬しており、田舎の農村風景やそこで暮らす農民たちをたくさん描いています。正直に言って、その画力は褒められたものではなくて「素人の手遊び」といった感じです。こんな絵を描いている日曜画家は今でも世界中に山のようにいます。そんなレベルの作品です。しかし、月日が経つごとに、風景や静物など、彼の腕前は目に見えて上がっていきます。題材に対する観察力が上がってきているのがわかるのです。それでも、まだこの段階では「巨匠ゴッホ」と呼ぶにはほどとおくて「なぜこの人が世界中に名を轟かせる大芸術家になったのか?」皆目わかりません。この時期の作品を見ていると、ゴッホは決して生まれながらの天才ではなく、凡人から時間をかけて上手くなった人なのだということが本当によくわかります。
破天荒で型破りな人生はそんなに楽しいものじゃない!
世間の多くの人たちがゴッホに魅力を感じるのはそのドラマチックな生きざまだと思います。画家を目指した27歳から10年間という短い人生を全力で走り抜けた天才というイメージが強いのではないでしょうか。破天荒で、世間の目など気にもしない豪胆な人物。でも、実際の彼は、神父になる勉強を始めても物にならず、画廊勤めも長続きせず、唯一のシンパである実の弟であるテオの世話になりっぱなし(精神的にも経済的にも頼りっぱなし)。世間から見ると、いわゆる『ダメ人間』なのです。また、かれの恋愛は、女性への同情から始まります。かなりの上から目線で女性を見ており、経済力もないくせに「俺がこの女を何とかしてやらないと」と勝手に思い込む勘違い男だったようです(子連れの娼婦への一方的な求愛などが良い例)。統合失調症で、梅毒持ち、アブサン中毒と、彼の画家人生はカッコ良さとは掛けはなれた、かなりハードなものだったようです。
芸術家としての成功とはいったいなんだろう?
ゴッホは1890年7月に拳銃自殺をはかり自らの命を絶ちました。よく識者の間では「もう1年、拳銃自殺を思いとどまっていれば、世間の称賛を受けることができたのに」といわれます。
ゴッホが世間の目にとまるのは1891年。アンデパンダン展で展示されたゴッホの作品を『エコー・ド・パリ』紙(パリの有名な日刊紙)が絶賛します。その後、第一次世界大戦後にはゴッホ作品の評価が世界的に確立します。記憶に残るのは1980年代のバブル期、ゴッホの絵は投機の対象として数百億円の価格で取引されたことです。変遷の中でゴッホという画家は歴史に残る伝説の人物となるのです。生前は貧困と重い病に苦しみ、高いプライドは傷つけられ、絶えず弟に負い目を感じ続けた人生でした。死後にその仕事が日の目をみることとなった芸術家は沢山います。ゴッホはその最たる人物です。天国にいるゴッホはいまの自分への評価をどう受け止めているのでしょう。きっと、運命の不思議、世間の不条理に、顔を引きつらせながらシニカルな笑みを浮かべているような気がします。でも、気位が高く、自信家の彼は、自尊心をおおいに満たされていることでしょう。
ちなみに、絵画教室のМ先生曰く、画商たちから「先生も精神病になるか、自殺してくれると絵が高く売れるに(笑)」と言われるそうです。美術業界では、この「ゴッホのスタイル」が絵を高く売る秘訣だと半分冗談、半分本気で言い交されているようです。何だか笑えませんよね。
それでも僕たちがゴッホに惹かれるわけ
世間の名声とは異なり『とても残念な』ゴッホですが、今でも多くの人々がゴッホを愛してやみません。「みんなどうして、こんなにゴッホが好きなのか?」そのことについて時々、考えます。
ゴッホが好きな理由は人それぞれですが、レッサーパンダは彼の生き方が好きです。「10年間、本気で頑張れば、もしかすると大輪の花が咲く日が来るかもしれない」という希望を与えてくれます。
実はゴッホより才能豊かで、能力が高い同時代人はたくさんいました。今回の展覧会では、そのような人たちの作品も多数展示されています。そんな中、ゴッホの生きざまは「成功するには、いくら才能があっても漫然と10年を過ごしたのではダメ。成功は情熱を持って命がけで何かに打ち込み続けることの先にあるのだ」と人に教えているようです。
今回のゴッホ展は単なる名画の展覧会ではなく、命がけで人生と格闘した、彼の生きざまを見せてもらったような気がしました。本当に充実した展覧会で、コロナウイルスが蔓延する中、わざわざ神戸まで出かけた値打ちがあったかな(笑)。
今日は、兵庫県立美術館で開催中の「ゴッホ展」のお話でした。それでは、また。
ゴッホ展について
ゴッホ展は2020年3月29日(日)まで兵庫県立美術館で開催予定ですが、現在、コロナウイルスの影響で臨時休館のようです。
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