感激!藤田嗣治の代表作が一堂に会する没後50年企画
先日、とても楽しみにしていた展覧会に行ってきました。現在、京都国立近代美術館で開催されている「没後50年・藤田嗣治展」です。今年の初めに芸術雑誌で開催予定を知り、この日を心待ちにしていました。「万全を期して見に行きたい」と思ってタイミングを伺っていたら終了間近のこの時期になってしまいました。例のごとく、ナイトミュージアムにすっかり味をしめて週末の夕方に出かけました。
日本を代表する世界的有名画家の人間と芸術
近年、芸術や文化、学術において世界規模で活躍する日本人が後をたちませんが、藤田嗣治はその先駆けの様な人物です。東京美術学校(現在の東京芸術大学美術学部)を卒業後、単身パリへ。その後、30代でサロン・ドートンヌに入選するなどフランスでは知らぬものはいないほどの人気を得て「パリで一番有名な日本人」と呼ばれていたようです。1925年にはフランスからレジオン・ドヌール勲章、ベルギーからレオポルド勲章を贈られています。
藤田は生涯を通して多くの自画像を残した作家ですが、この時期の自画像は自身に満ち溢れています。藤田のトレードマークになっている「おかっぱ頭に丸メガネ」というスタイルが確立されるのもこの時期です。藤田はパリで多くの時間を過ごした後、南米から日本、ニューヨーク、再びフランスにもどり帰化した後にカソリックの洗礼を受けます。最後は世界を巡り歩いた82年の生涯をスイスで終えます。その生きざまから藤田のことを「旅する画家」と呼ぶ人もいます。
華々しい半生から受ける画家・藤田嗣治の印象
レッサーパンダの藤田に対する印象は「野心家」、「生まれ持っての天才」、「プライドの高いペシミスト」、「酒と女が好きな生活感を感じさせない遊び人」、「大のネコ好き」といったものでした。フランス社交界で「東洋の貴公子」ともてはやされ、大富豪の薩摩治郎八の支えで「食べることに困らない放蕩で、調子の良い人物」といったところでしょうか。
時代と作品を丁寧に見ていくと、これまで描いていた藤田像が一変する!!
今回の展覧会を見て印象が大きく変わりました。展覧会は時代ごとに作品が並べられており、その時々の藤田の葛藤やのたうち回るような苦悩、几帳面で真摯な努力家の姿が浮き上がってきました。特に感じたのは「時代の流れを感じ取る感性」です。面白いのは若い頃にはキュビズムやシュールレアリズムにも挑戦しています。でも「これは俺には無理だ!」という感じで、すぐに撤退しているところが滑稽です。
良く藤田の洋画は繊細で日本画の技法を取り入れているといわれています。かなり確信犯的で当時のパリで評判となったジャポネスクを巧みに取り入れ「受ける作品」を発表しています。また、第二次世界大戦中は日本に帰り「作戦記録画」という軍の要望を受けた大作を2作だけ描いています。「軍には歯向かわないけれど、合流もしない」という微妙な路線を貫き通します。
その後、第二次世界大戦が終わると戦後の日本を見限り、ちゃっかり戦勝国のアメリカで作品作りを始めます。パリの風景を描いた彼の代表作「カフェ」は実はニューヨークで描かれたものなのです!(ビックリ!!)そんな時代の風を読む感性を持った、悪く言えば風見鶏的な聡い人物なのです。それでも、今回の展覧会を見て強く感じたのは、作品の裏に見え隠れする本当の藤田の姿です。小心で、神経質で人目を気にしている痩せっぽちの東洋人。でも、人目に留まらない場所で七転八倒し、血と汗と涙を流しながら作品に向き合う姿を感じることができました。改めて藤田の「人間臭さ」を感じて、よりいっそう好きになりました。
人間への愛と芸術への情熱を感じた展覧会
フランスに根を下ろした藤田はランスという街でカトリックの洗礼を受け、以後、レオナール・フジタと名乗ります。晩年をランスで過ごし「フジタ礼拝堂」と名付けたロマネスク様式の礼拝堂を自ら設計します。藤田とその夫人の遺骨はこの礼拝堂に埋葬されています。ランス時代の藤田は宗教画に没頭します。面白いのはキリスト教の物語を描いた作品の中に藤田の自画像とおぼしき人物が頻繁に現れることです。そんな作品を見ていると人生の最終コーナーに差し掛かった藤田の心情、悲哀を感じてしまい、愛おしさがわいてきます。
暗い、暗いと不平を言うよりもすすんで明かりを灯す人生
「心のともしび」というカトリック協会が提供する超長寿ラジオ番組があります。その番組の冒頭に『暗いと不平を言うよりもすすんであかりをつけましょう』という有名なメッセージが流れます。藤田嗣治を想う時、このメッセージが頭を過ぎります。藤田の生きた時代は二つの大きな戦争があり、決して明るい時代ではありませんでした。しかし、藤田は芸術活動を通じて、自身の人生を切り拓きます。なおかつ他人の人生に光明を与えるそんな人物でした。自分の置かれた環境や時代に不満を持つのではなく、試行錯誤を繰り返しながら明るく生きたその人生に脱帽です。
今回の展覧会は、本当の藤田嗣治の姿に触れることができる貴重な回顧展です。12月16日までなので、まだご覧でない方はお早目に。それでは、また。
没後50年 藤田嗣治展
会 期: 2018年10月19日(金)~ 12月16日(日)
場 所:京都国立近代美術館
〒606-8344京都市左京区岡崎円勝寺町26-1
※地下鉄東西線「東山」駅下車 徒歩約10分
開館時間: 午前9時30分~午後5時
ただし金曜日、土曜日は午後8時まで開館
*入館は閉館の30分前まで
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